占い師さんに背中を押されてから、僕の中で、何かが動き始めた。
ただ、その「動き」は、自分でも理解できない方向に進んでいった。
ある朝、カツラをつけながら、僕はふと思った。「アデランスじゃ、ダメなのか?」
ダメな理由は、ない。今のカツラはよくできている。誰にもバレていない。維持費はかかるが、払えないほどじゃない。機能としては、何の不満もない。
でも、頭のどこかで声がする。——植毛のほうが、いい。
根拠を探した。見つからなかった。
バレにくいから? それもある。地毛なら、風が吹いても、温泉に行っても、寝るときも、気にしなくていい。でも、それだけじゃない。
正直に書く。たぶん、これは理屈じゃない。
ナデシコさんの「お疲れ様でした!」を思い出すたび、僕は、地毛が欲しくなる。
カツラを外す必要なんてないのに、彼女の前で、堂々と、自分の地毛でいたくなる。意味がわからない。
妻でもない、恋人でもない、まだ告白すらしていない相手のために、150万近い金を出して頭を手術しようとしている。冷静に考えれば、どうかしている。
でも、意味はわからないが、本気だった。
男というのは、こういうとき、本当におかしくなる。恋は、人を、こんなにも不合理にする。
それでも僕は、もう止まれそうになかった。