手術が終わって、本当の戦いは、ここから始まった。待つ、という戦いだ。
術後しばらくは、クリニックの指示で、患部にカツラを乗せられなかった。だから僕は、思い切って数日、有給を取った。一人の部屋で、赤くなった自分の頭を鏡で見ながら、静かに過ごした。
あの、カツラを外して鏡の前で悩んでいた夜を、ふと思い出した。あのときと違うのは、今は「待っていれば、地毛が生えてくる」という希望があることだった。同じ鏡なのに、映っているものが、まるで違って見えた。
そして、術後しばらくして、植えたばかりの毛が、ごっそり抜けた。
知識としては知っていた。「初期脱毛」といって、移植した毛が一度抜けて、そのあと毛根から新しく生え始める、正常な経過だと。
でも、頭で分かっていても、実際に抜けた毛を見たときは、心臓が止まるかと思った。「失敗したんじゃないか」と、何度も鏡の前で不安になった。怖がりの本領、ここでも発揮である。
それでも、数ヶ月かけて、少しずつ、本当に少しずつ、新しい毛が生えてきた。最初は産毛のような頼りないものが、日に日にしっかりしてくる。鏡を見るのが、怖いことではなく、楽しみになっていった。
患部が落ち着いてからは、生えそろうまでの間、帽子やカツラでうまく隠しながらの日々だった。職場では、これまでどおり。ナデシコさんの前でも、これまでどおり。——バレないか。ヒヤヒヤする日々だった。
ある日、ナデシコさんが、いつもの敬礼で「お疲れ様でした!」と言ったあと、少しだけ僕の顔を見て、こう言った。「丸さん、最近、なんだか調子よさそうですね」。
どきっとした。気づかれたか、と。でも彼女は、にこっと笑っただけだった。
僕は、まだ何も言えない。でも、心の中で思っていた。地毛が生えそろって、カツラを卒業できるその日に——僕は、ナデシコさんに、ちゃんと向き合えるだろうか。
カツラを卒業する日は、少しずつ、近づいている。次のフェーズに続く。