僕は、自毛植毛をやることに決めた。
衝動だけじゃない。仕組みを調べ、リスクを調べ、費用を調べ、カウンセリングで数字を確かめた。そのうえでの決断だった。怖がりの僕にしては、上出来だと思う。
手術の日。これが、人生で一番長い一日になった。
まず、後頭部の毛を採取する。局所麻酔をするのだが、その麻酔の注射が、噂どおり、なかなかに痛い。僕は奥歯を噛んで耐えた。一度効いてしまえば、あとは不思議と痛みは引いて、自分の頭で何が行われているのか、半分くらいは現実感がなかった。
採取した毛包を、一つひとつ、薄くなった部分に植えていく。時間は長い。じっと座っているだけなのに、終わったときには、どっと疲れていた。
すべて終わって、鏡を見せてもらった。植えたばかりの頭は、まだ赤くて、正直、見た目はなかなかのものだった。「これが、数ヶ月後に生えそろうのか」と思うと、半信半疑でもあった。
でも、放心しながら、僕は少しだけ笑っていた。
やってしまった。後戻りはできない。でも——やってよかった、と、これから思えるようにするのは、もう、自分次第だ。不思議と、後悔はなかった。
ただ、クリニックからは、植えた部分が落ち着くまで、しばらくはカツラを患部に乗せないように、と言われていた。生えそろうまでの数ヶ月を、どう乗り切るか。新しい宿題ができた。
それでも、その宿題は、これまでの「隠し続ける」宿題とは、少し色が違った。終わりのある宿題だったからだ。