ナデシコさんと、付き合い始めた。

付き合ってみて、いちばん驚いたのは、関係そのものより、自分の心の軽さだった。

隠しごとが、ない。

思えば僕は、何年も「バレないように」生きてきた。風の強い日も、雨の日も、人と近づくときも、いつも頭のことを気にしていた。カツラの位置、角度、距離。気を張り続ける毎日だった。

でも、ナデシコさんには、全部知られている。植えた毛のことも、カツラだった過去も、情けない遠回りも、全部。

だから、彼女の前では、何も気にしなくていい。風が吹いても、平気だ。

こんなに楽な気持ちで人と一緒にいられるのは、薄毛に悩み始めてから、初めてかもしれなかった。

隠すのをやめるというのは、相手に打ち明けることであると同時に、自分が自分を許すことなんだな、と思った。

ナデシコさんは、相変わらず、よく笑い、よく敬礼した。僕は、その全部が、好きだった。