付き合い始めて、しばらく経ったある夜、僕は思いきって聞いてみた。

「どうして、僕みたいなのを選んでくれたんですか。僕、見てのとおり、臆病で、心配性で、優柔不断で……ナデシコさんとは、正反対なのに」。

ナデシコさんは、少し考えてから、いつもより静かな声で話し始めた。

「丸さん。私、元自衛官でしょう。あそこで叩き込まれたのは、用心深さって、生き残るために一番大事な能力だ、ってことなんです」。

「臆病って、悪い意味で使われがちですけど、私は逆だと思ってて。ほら、ゴルゴ13って、漫画だけど、あの人がずっと生き残ってるのは、誰よりも用心深いからでしょう。臆病なくらい慎重だから、死なない」。

彼女は続けた。「世の中、勇気と無謀を、ごっちゃにしてる人が多いんです。やたら強気で、トラブル上等、みたいな人。一見、勇敢に見える。でも実際は、無理をしてるか、鈍感なだけ。ああいう人は、粗雑で目立つから、変なのに絡まれて、結局まわりを巻き込むんですよ」。

そこで、彼女は少しだけ、声のトーンを落とした。

「うちの元旦那が、まさにそれで。強気で、何でも来い、ってタイプ。最初は頼もしく見えたんですけどね。場所をわきまえず強気で、デリカシーがなくて。トラブルが起きるたびに、巻き込まれるのは、いつも私のほうだった」。

「強気も弱気も、出す場所を選ばなきゃいけないんです。あの人は、それをしなかった。あのデリカシーのなさは、私にとっては、ハラスメントみたいなものでした。だから、別れたんです」。

僕は、黙って聞いていた。

「その点、丸さんは」と、彼女はいつもの笑顔に戻って言った。「すごく、細やかなんですよね。私が新人で入ったとき、教育係だったでしょう。あのとき丸さん、私が困らないように、先回りして、いろんなことに気を配ってくれてた。臆病な人って、要するに、人の痛みに敏感なんですよ。ああ、この人はいいな、って、私、あのとき思ったんです」。

僕は、言葉が出なかった。

何十年も、自分の欠点だと思って、恥じてきた臆病さ。それを、こんなふうに、まっすぐ肯定してもらえる日が来るなんて、思ってもみなかった。

僕の長い遠回りは、ぜんぶ、臆病さから始まっていた。でも、その臆病さが、巡り巡って、この人にたどり着く理由になっていたのか——そう思うと、不覚にも、泣きそうになった。