教育係という立場は、考えてみれば、ずるい立場だ。

仕事を教えるという名目で、毎日、堂々と彼女と話せる。

ナデシコさんは、知れば知るほど、変わった人だった。そして、いい人だった。

昼休み、自衛隊時代の話を聞いた。「災害派遣で被災地に行ったときが、一番きつかったけど、一番やりがいがあった」と、彼女は淡々と言った。さっきまで手榴弾の冗談を言っていた人と、同じ人とは思えない横顔だった。

離婚のことも、聞いてもいないのに少しだけ話してくれた。「価値観が、だんだんズレちゃったんですよね。お互い悪者じゃなかったけど、一緒にはいられなかった。それだけです」。恨み言ひとつ、言わなかった。

「腰さえ壊さなければ、ずっと自衛官でいたかったんですけどね」と笑う。その笑い方が、無理をしているふうでもなく、本当にさっぱりしていた。

僕は、こういう人に弱いんだと思う。

自分の弱いところを、笑い飛ばせる人。隠さない人。「バツイチです」も「腰に爆弾抱えてます」も、全部オープンにして、それでも前を向いている人。

僕とは、正反対だ。

僕は、隠している。頭のことを、ずっと隠している。隠して、転職して、引っ越して、それでまだ隠している。

ナデシコさんの隣にいると、自分の「隠している感じ」が、いつもより重く感じられた。

でも、それ以上に——もっと一緒にいたい、と思ってしまった。

まずいな、と、また思った。これは、本格的にまずいやつだ。